ネーミング



気持ち良い秋晴れの午後。

ご近所散歩に出た。自宅から10分ほど歩いた所に、小さい海苔工場がある。昔ながらの建物で古い。

機械のノイズや人の気配もなく、今現在稼働しているかどうかも分からない。

ただ、その佇まいは雄弁だ。

工場のコンクリート製の壁面には、広告が直接ペイントされている。

「食卓海苔は●●」「ご贈答に海苔は●●」「業務用海苔承り〼」(マスが時代を感じさせる。)・・・などなど。

その中で一際目を引くものがあった。

「シケナイ」 うーん・・・。なんてストレートな商品名だろうか。

これは海苔や乾物などが湿気ないようにする、いわゆるシリカゲルのような物らしい。

海苔と共にシケナイを買って湿気ないように永く美味しさを保ってね、ということか。

直球勝負だ。肝っ玉が据わっている。

あまりの潔さに清々しいほどだ。

シケナイの製造会社では、役員クラスのおエラいオジサマ達が会議室に集い、重苦しい空気の中マジメ顔で「これなら売れるはずだ!

シケナイでいこう!シケナイ絶対必勝!!」と、やっていたのかと思うと感動すら覚える。

いや存外、社長の孫が「おじいちゃん、これシケないから、シケナイがいいよぅ」との発言で、あっさり決定されたかもしれない。

子どもの感性は、ピュアだ。そして誰もが分かりやすいだろう。

表記形体はどうか。

カタカナ表記ゆえに、舶来モノの香りさえ醸し出している。

まるでヨーロッパ辺りで愛されている菓子のようだ。

ほら、バターと小麦粉と砂糖をミルクでこねて型に流して焼いたアレよ、アレ・・・そう!シケナイだわ!

かくて甘くて美味しい物に目がない女性の間で大流行。

シケナイを無理やり漢字表記する。「死毛那維」とでもなるだろうか。

こうなると、まるで昔の暴走族のチーム名のようで怖い。

ひらがなでは「しけない」。

なんとなく幸薄そうな感である。

やはりこの場合カタカナ表記だからこそ功を奏するのである。

商品のネーミングには、製造会社や製品に携わった人々の意気込みとタマシイを感じる。

いや、そうでなければ消費者の購買欲に訴えかけることはできないだろう。

仮にネーミングが悪く消費者に敬遠されたならば、裏目に出てしまっているが、それはそれでその名にパンチが利いている証になるだろう。

偶然とタイミングで、サッと生まれる名もある。

だが大半は社運をかけ、たくさんの時間と愛情、願いやアイデアからひねり出される。

世に広く、永く愛されて欲しい・・・そんな気持ちのカタマリだ。

日頃何気なく目にするネーミング。

その名の持つ言葉の響き、文字の印象から、我々受け手は想像と期待を「楽しく勝手に」膨らませるのである。

<<< 保志 灯演 著  「うたた寝のミントティー」より>>>

イーゼルホーム  住まいる館  遠藤でした。